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Posted by 真田隊 - 2008.06.07,Sat
ノリと捏造が激しい暴走列車の片棒かつぎことヨルです。
宇宙で真田る妄想はすごい元気だったのですがようやく書き込めた・・・遅参ですみません
素敵企画のフラグを立ててくれた味付けさんに激しく感謝しつつ暴走が自重していないので、
広い心で読んで楽しんでいただければと思います・・・

********************

 佐助と幸村が所属する、所謂ところの「宇宙警察」―――この名称の意味も無い恥ずかしさはどうにかならないかと佐助は常々感じているのだが、とにかくこの組織は通称・自称・他称において「武田警察」と呼ばれている。本部は第三銀河系に存在する私有惑星「甲斐」だが、あっちこっちの銀河へと犯罪者を追っかけて宇宙を駆け回るために滅多に本部(ほし)へは帰らない。所属メンバーの生活の拠点は専ら、このベース型巨大コロニー「躑躅ヶ崎」であった。
 さて聞いて驚けこの「躑躅ヶ崎」、武田警察のトップでありコロニー所有者である信玄の「乗組員を大事に」という信念がいろんな意味で凝縮された結果、小規模とはいえコロニー内に娯楽用の区画がつくられ、ショッピングセンターあり、レストラン街あり、結婚式場あり、体育館あり、工房あり・・・・・・何が何やら、とにかく警察組織のコロニーとしては異常なほどの充実度を誇っている。カスタマイズすることが前提とされているユニットタイプのコロニーだが、一部の住人たちのそれはもはやカスタマイズの範疇を飛び越えて純粋な「改造」の粋にまで到達しており、通路は入り組んで複雑極まりない。配属されたばかりの新入りがコロニー内で迷って会議室にまでたどり着けないという、いわゆる遭難が発生しまくった結果、プライベート区画とブリッジ区画以外に出るときは必ず持たされる情報端末にGPSが仕込まれるようになっていた。

 その端末を弄りながら、佐助はコロニー内の通路をのんびりと歩く。
 小さな液晶に浮かんでいるのは3Dのコロニー内部見取り図だ。ショッピングセンターなどがある娯楽区画ならいざしらず、それ以外の区画はひたすら枝分かれして伸びる通路とそれに連なる部屋によって構成されている。個性の欠片もないそこをひたすら歩きながら端末を操作していたが、ふと探していたものを見つけて佐助は表示していた見取り図の角度を変えた。
 かつて地球の地べたを這いずり回ることしか知らなかった頃、人間は地図をすべて紙に出力していたらしい。持ち込める資源は有限なのだと骨の髄まで叩き込まれる宇宙育ちの人間には不可能な行動だ。宇宙に飛び出し各惑星で大規模なテラフォーミングを施していった現在、資源の枯渇という事態は避けられたが惑星の資源量によって明らかに格差が生じている。端末にデータを保存するのではなく何らかの理由で出力しなければならなくなったときも、プラスチックペーパーや電子ペーパーが主流で紙一枚にもぴりぴりと神経を尖らせる惑星から21世紀の地球並みにどっさりと惜しみなくバージンパルプを浪費する惑星まで、その差は明確である。
 甲斐は自然資源の豊富な惑星だが、躑躅ヶ崎で主流なのは端末によるデータの持ち運びだった。他惑星との外交などがあると信頼性の都合でどうしても紙が主流になりがちだが、宇宙を飛び廻るコロニーでは端末で十分事は足りる。絶望的に携帯機器と相性が悪い一部の面子は電子ペーパーのお世話になるが―――何を隠そう、佐助の上司こそがまさしくその「機械音痴」であった。
 バイクの腕前は一流、通信機器もきちんと扱うけれども、端末からの情報検索が絶望的に下手なのである。電話とメール機能は習得しているくせに検索が出来ないという謎を誰か解明してほしい。

 ともあれ―――

 見取り図に点滅する赤い光は幸村の端末に埋め込まれているGPSだ。それを追いかけてトレーニングルームの扉にカードキーを通した佐助は、一歩部屋に踏み込むなりずんと両肩にかかる負荷に軽く呻いた。
 星によって重力は違う。一応宇宙基準は人類発祥の星である地球のオールドアースGが用いられてはいるが、地球と同じ1Gの惑星なんてあるほうが珍しいのだ。コロニー内は擬似重力制御装置によって大体0.8Gから0.95Gに設定されているが、彼がちらりと扉脇のスクリーンでトレーニングルーム内の設定Gを確認すると1.7という数字が点滅している。重力が軽い場所で長く生活していると筋力や骨の強度が弱体化するからコロニーの乗組員には定期的に1G程度の重力設定下での訓練が義務付けられているのだが、1.7はいくらなんでもないだろう。通路から扉一枚でいきなり負荷が二倍近くになった計算だ。
 急に重く感じるようになった端末をスツールに置いて巡らせた視線が、演習シミュレータの操作席に沈むように眠り込んでいる上司を見つけて彼は軽く嘆息する。ゲーム間隔で演習ができる、を売り文句に導入されたシミュレータのスクリーンには、それまで上司が叩きだしたのであろう成績が表示されっぱなしになっていた。一週間ほど前に佐助が塗り替えておいたはずのスコアランキングは、一位から十位まで「Yukimura.S」の名前で埋め尽くされていたが。

 ―――まったく自分の上司の負けず嫌いにもほどがある。

 もうひとつ溜息を付いて佐助は目を覚ます様子のない幸村の肩を揺さぶった。
「だーんな、俺あんたの目覚ましやるためにここにいるわけじゃねーんだけど」
「・・・・・・、む・・・佐助か」

 重たい瞼を擦りながら言い放たれた、なんでお前がここにいる、という眠たげながらも冷たいお言葉に涙が出そうだ。この自分が好きでトレーニングルームなんぞに入り浸るわけがないっていうのに。

「あんたがこないだ言ってた、わんこのエンジン音に混ざる雑音。整備班の連中がメンテした結果説明したいから呼んで来いってさ」
「端末でも呼べるではないかー・・・・・・」
「メールしても通信いれても音沙汰ないからっつって俺様が呼び出されたんだよ」

 旦那が爆睡してるから、あいつら俺のこと暇人だと思ってやがるんだから、と続けると、ようやく眠気を払拭できたらしい幸村がシミュレータの中であくびついでに身体を伸ばす。立ち上がる上司に手を貸してやれば、すまぬな、と素直に手が縋ってくる。1.7G下でぐうすかと寝ていたくせにこんなところで甘えてくるのは、整備班やオペレーター室の同僚らが言うようにやはり自分がおかんポジションせいなのだろうか。

 よろよろと立ち上がった幸村の、よれた襟に指をかけて直してやる。ん、とそれに応えた声。

「・・・・・・呼ばれているのは整備班だったな?」
「第三ドックね」

ああ、と頷いてトレーニングルームを出ていく幸村が、扉の前でこちらを振り返った。

「佐助は?」
「俺は後で。すぐ追いつくさ」
「そうか。またな、」

シュン、と閉じた扉を確認して、息を吐く。やはりまだつけっぱなしになっている演習シミュレータのスコアランキング画面を終了させ、佐助はそれまで幸村の眠っていた席に付いた。ニューゲーム画面を呼び出し、自分のIDを打ち込んで演習を開始する。

(・・・・・・旦那の一位スコアと前回俺が出したスコアの点差が22.5、十位スコアとの差が5.7)

少々きついが、決してひっくり返せない差ではない。操作コンソールとホログラム画面を呼び出し、ヘッドギアを装着した彼は慣れた手つきでスタートボタンを叩いた。


―――塗り替えられたスコアボードに自分の名前をひとつ割り込ませてから、旦那の後を追おう。

そんなことを思いながら、画面の中にちかりと光る敵艦影を撃破すべく、実は上司に負けず劣らず負けず嫌いの彼は素早くコンソールに指先を走らせたのだった。


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